食品工場の作業着について 河岸 宏和
●「他山の石」で新聞報道を見ます
北海道のおみやげの有名な定番品の新聞報道で、「作業着を自宅で洗濯させているのは問題がある」との報道がありました。いまだに食肉偽装などの食に関する事件報道は、毎日のように報道されています。三面記事の下の社告も毎日のように掲載されています。
新聞報道や、社告を見たときに「対岸の火事」と考えて、「大変だな、会社無くなってしまうな。」と思うか、「他山の石」と考えて、「自分の工場でも直ぐに手を打たなきゃ行けないな」と考えるか
で工場の品質管理レベルが大きく変化します。
北海道新聞のこの製菓会社に関する記事の中でコンサルタントの意見として、書いてあることでも、「他山の石」として本気で検討することが重要だと思います。
●作業着は危害を防ぐ重要なハードルです
食品工場で作業着に着替える理由は、図1の様に物理的危害、化学的危害、生物的危害の防止になります。従業員の方は自分の私服が汚れるのがいやだという方もいると思います。スポーツをするときは汗の乾きが早いスポーツウエアなど機能を求めている作業着もあります。
私たちは自分が毎日着る洋服を購入するときは、試着したり、触ってみたり、価格を見たり、試着をした自分の姿を鏡の前で眺めてみたりします。十分に検討し試着して気に入った服しか購入しません。毎日着る服を選ぶときは、十分検討して購入した服の中から更に考えて服を着ています。
作業着が会社支給かどうかで会社の品質管理に対する考え方が良く理解できます。会社の方針で大切なことは、製品の事を本気で考えているか、従業員のことを本気で考えているかどうかということです。「作業着は初めの一枚は支給するが二枚目以降は従業員に実費で購入させています。」としている工場もあります。
毎日の洗濯を考えると、十分な作業着の数を支給しているかどうかが大切なポイントになります。汚れのひどい作業場、高温で汗をかく作業場、冷凍庫などの低温作業の作業場では、一日の中でも何回も着替える必要がありますので、十分な作業着の数を支給する必要があります。
工場内で着用する作業着を決めるときに何に注意してきめていますか。作業着が求められている機能のうち一番は物理的危害、即ち、異物混入を防ぐことです。異物混入の中で毛髪混入を防ぐことが一番求められています。毛髪混入をいかに防ぐことが出来るような機能を備えているかが一番になります。図2参照。
もちろん、物理的危害のなかで作業着が要因の危害が起きては論外になります。
鉄製のファスナーが付いている、ボタンが付いている。製品に混入したときに危
険異物になる可能性があるものが作業着についていてはいけません。
いまだに作業着にボタンが付いている作業着を使用している工場もあります。ボタンは食品に混入した場合は金属探知機に反応しませんので、ボタンの作業着を使用している工場は早急に交換する必要があります。
異物を作業室内に持ち込ませないような構造になっているかどうか確認します。ワイシャツの胸ポケットのようなものが付いている場合もあります。ポケットが付いていると、私物を持ち込みたくなりますので、ズボンを含めて、ポケットが無い構造が必要です。但し、ロッカーの鍵などどうしても工場内に持ち込む必要がある場合がありますので、胸の内側にうちポケットを作ります。内ポケットであれば、鍵などを持ち込んでも作業室内で、製品に混入する可能性は低くなります。
作業着の色は、作業室の衛生度で区分している工場もあります。色々な色がありますが、汚れた時に目立つ色、薄い色であることが必要です。
●毛髪混入は作業着で防げます
作業着の材質は、繊維の種類、繊維の太さ、編み方で色々考えられますが、髪の毛が落ちやすく、毛羽立ちにくいものが必要です。髪の毛混入防止の上で大切な点は、髪の毛が一番落ちやすい肩の部分に縫い目などがあると、髪の毛が引っかかりますので、図のようにラグラン袖になっていることが必要です。
襟も無くてもいいのですが、襟が無いと、髪の毛混入防止の頭巾などをかぶったときに頭巾がはみ出る可能性がありますので、立ち襟にします。袖口も袖がまくれ上がらないようにゴムで閉じてあることが必要になります。
上着をズボンの中に入れるか、かっぽう着の様に外に出すか議論の分かれるところですが、包装工程などの髪の毛混入に注意の必要な工程は、上着がすっぽりベルトの上にかぶさっている事が必要です。ズボンのベルトが外に出ていると、ズボンのベルト部分に髪の毛、異物が引っかかり、製品に入る可能性が出てきます。
●作業着は専用の保管庫が必要です
作業着を何処で保管しておくか決まっていますか。作業着が袋に入って、棚の上に置いてある工場もあります。私が確認した中で一番作業着の管理がひどい工場では、作業着のまま従業員の方が車に乗って通勤してくる工場もありました。自宅から作業着に着替えて車に乗って、作業をしてそのまま帰っていくのです。
初めにお話したように作業着は異物混入防止が一番の目的です。自宅で着替えてしまっては、猫の毛、犬の毛などの異物が作業着に付いてしまいます。必ず工場で着替えることが必要です。通勤で着てきた洋服と作業着が同じロッカーで保管されていては異物が移ってしまうので問題があります。ロッカーは私服、通勤着のみを入れるものと考えます。
●家庭で洗濯することは問題があります
「作業着の洗濯は何処で行っていますか」この質問を行うと、私の連載を読んでいただいている皆さんはほとんどの方が「従業員の家庭で行っています。」と答えると思います。もちろん家庭での洗濯でも次の点を守っていれば問題はないと思います。
1. 専用の洗濯機であること
2. 洗剤は香りの無い洗剤を使用すること
3. 洗う水は新しい水を使用すること
4. 乾燥は専用の乾燥機で行うこと
5. アイロンをかけている事
6. 作業着をたたむときは専用の敷物を引いてその上で行うこと
7. 作業着を入れる袋も専用で洗濯前と洗濯後を分ける事
以上の7点を守ることが出来れば、従業員の家庭で洗濯しても問題はありません。但し私がお話している条件を守ることは、ほとんど不可能だと思います。従業員の方の家庭は、下着を洗っている普通の洗濯機で洗って、外に干していると思います。洗濯物を干しているそばには犬小屋があり、犬が気持ちよさそうに寝そべっているかもしれません。
作業着は専用の洗濯をする必要があります。洗濯を業者に任せている工場もあると思いますが、洗濯をしている現場の確認が必要です。点検のポイントは、専用の洗濯機であるかどうか、他の洗濯物と一緒に洗っていないか、最後にアイロンがかかっているかがポイントになります。
特に最後のアイロン工程は、生物的危害防止上不可欠な工程になります。洗濯が終わって届けられてきた作業着を細菌検査してみると色々な結果がわかると思います。細菌検査方法は、洗濯後の作業着に滅菌水をかけて絞って、絞り汁を検査することで容易に行うことができます。
作業着には、帽子、前掛けなどが含まれます。帽子は毎日洗濯していない工場もありますが、作業着は毎日洗濯したものを身に着けることが大切なことです。
●作業着は消耗品です
「作業着の交換頻度を教えてください。」
「破けるまでです。破けたら現物交換をします。」
工場で交換頻度を質問するとこう答える方がいます。ワイシャツでも何度も洗濯をしていると、体の触れる部分、特にネクタイをして首と擦れる部分の繊維がほつれてきます。ほつれてしまったワイシャツを着ている方は少ないと思います。
あなたが着ている作業着、あなたの工場の作業着を確認してください。手で触れて見てください。繊維が毛羽立っていませんか。作業着の表面の繊維が毛羽立っていると毛羽立ちに毛髪がひっかかって下まで落ちることなく、製品に異物混入する可能性があります。作業着は何回洗濯したら交換するか決めておく必要があります。
●作業着は誰のものか
作業着、エプロンなどは従業員、個人個人専用にしている工場が多いと思います。週に一度しか働かないアルバイトも専用のロッカーが有って作業着、エプロンが専用の工場が多いと思います。洗濯の問題、通勤着と作業着を同じロッカーに入れてはいけない事を考えると、作業着は、洗濯後のものをサイズ別に保管して、毎日会社で洗濯したものを誰でも着るように管理することが、一番管理が容易だと思います。
「誰が着たか判らない作業着を着るのはいやだ。」と声がでるかもしれませんが、旅館に泊まった時の浴衣、ホテルのバスローブなどを例に挙げれば従業員の理解を得ることに問題はないと思います。
●作業靴は専用の洗い場を設置します
作業着は洗濯がしてあれば、誰が着た作業着でも問題は無いと思います。しかし、作業靴は、やはり誰でも履くルールにすると抵抗があると思います。作業靴は長靴、短靴がありますが、どちらの靴も使用後は毎日洗うことが重要です。
靴を何処で洗うことが出来るか確認してみてください。何処で、どんな洗剤を使用して、どんなブラシで洗うことができますか。洗った後の靴を干すことができますか。長靴を洗うときに長靴を履いたままでは靴底を洗うことはできません。短靴でも靴の裏を洗うときには靴を脱いで洗う必要があります。靴を洗う場所は、作業場から出て靴を脱いで、下駄箱に入れるまでの間に靴を洗う専用の流し場がいることになります。
長靴の中に材料などが入ってしまって長靴の中を洗いたいとしまいます。長靴の中を何とか洗ったとしても干す場所はありますか。私も若いころ現場で長靴を履いていました。私が働いていた工場は現場事務所でも長靴のままでしたので一日中長靴を履いていました。当時は長靴の中を洗うことなどしませんでしたから、水虫になってしまいました。長靴の中を洗って干せる場所が必要になります。
●作業着のことを本気で考える事が必要です
毛髪混入クレームが出ると、入場前のローラーがけの充実、作業中のローラーがけを第三者で行います。などと言った対策が良く考えられますが、まったく改善されない場合があります。異物混入が多い工場などは、今回のお話の作業着のことを真剣に考えてみると改善が出来るかもしれません。
従業員の事を考えると、毎日綺麗な作業着で気持ちよく働きたいものです。アルバイトが一週間前に着た、汚れている作業着を着て、「今日もがんばろう」とは思わないと思います。
食品工場関係の新聞報道を「他山の石」として是非綺麗な作業着で作業をするようにしてみませんか。
●服装規定を決める必要があります
服装規定は図3の様に従業員、仕入れ業者、見学者に関して決める必要があります。従業員のみ服装規定がしっかり出来ていて、工場見学者がスーツのまま外から履いて来た靴のまま工場見学を行っているケースもあります。従業員の作業着の中に着る下着などが毛糸で出来ていて毛糸が製品に混入する可能性もあるので毛羽立った下着などは着ない様にする規定が必要になります。
図などはHPで確認をお願いします。
http://homepage3.nifty.com/ja8mrx/sagyougi11.htm
出典:河岸 宏和氏著
食品工場長の仕事とは
第22回 食品工場の作業着について http://homepage3.nifty.com/ja8mrx/sagyougi11.htm
食品工場長の仕事とはHP
http://homepage3.nifty.com/ja8mrx/koujyou1.htm
月刊HACCPに「中小食品工揚の品質・安全性管理のポイント」連載中
http://www.keiran-niku.co.jp/haccp.html
河岸宏和氏の著書 『ビジュアル図解 食品工場のしくみ』 同文舘出版
http://astore.amazon.co.jp/koujyou-22/249-0151581-1769102
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